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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(オ)122号 判決

主文

原判決中上告人に関する部分を破棄し、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告理由は、別紙記載のとおりである。

上告代理人鍜治利一の上告理由第一点について。

国税滞納処分による差押の関係においても、民法一七七条の適用があるものと解すべきである。そして、本件において、国が登記の欠缺を主張することが信義に反し、従つて登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当らないというためには、財産税の徴収に際し原審の認定するような経緯があつたというだけでは足りず、このためには、所轄税務署長がとくに被上告人の意に反して積極的に本件不動産を被上告人の所有と認定し、或いは、爾後もなお引き続いて右土地が被上告人の所有であることを前提として徴税を実施する等、被上告人において本件土地が所轄税務署長から被上告人の所有として取り扱わるべきことをさらに強く期待することがもつともと思われるような特段の事情がなければならないと解するのが相当である(第三小法廷昭和二九年(オ)第七九号昭和三一年四月二四日言渡判決参照)。しかるに、原審が右特段の事情の存在につき何等判示することなく、本件において、国は登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当らないものとし、これを前提として、上告人に被上告人の抹消登記請求に応ずべき義務があるものとしたのは、法の解釈を誤り、その結果審理不尽の違法に陥つたものといわねばならない。

よつて、その他の上告理由については判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官小林俊三の少数意見を除き、その他の裁判官の一致した意見により、主文のとおり判決する。

裁判官小林俊三の意見は次のとおりである。

本件は原判決を相当とするから、上告を棄却すべきものと考える。その理由は昭和二九年(オ)第七九号上告人富山税務署長被上告人浜西栄作間公売処分無効確認等請求事件判決に述べたとおりである。(昭和三一年四月二四日最高裁判所第三小法廷)

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